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介護食に見えない嚥下配慮スイーツ——くちどけ高級デザート開発の裏側

2018.1.25 2026.2.1 更新
嚥下配慮のある、ご家族にも、そうでない方にも同じ食卓で楽しめる高級冷凍カップスイーツを。そんな実際にお受けした相談から商品化までの道のりを、実際のやり取りを交えてご紹介。

商品化率を高める、開発優先順位の言語化、ビジュアルデザイン制作・テーマ音楽制作までを含めたブランディング実践編の全プロセスをぜひご覧ください。

目次

見た目、高級スイーツだが嚥下困難でも食べやすく

「家族の中に、嚥下困難者がいる。でも露骨に介護食、となると、寂しいというか…プライドが許さないというか」——そんなご相談をいただく機会が、年々増えています。

嚥下(えんげ)に配慮が必要な方向けの食品市場は、医療・介護の文脈で語られることが圧倒的に多く、一般的な食の楽しみや贈答(ギフト)文化から切り離されがちです。

しかし実際に、ご家族の中に嚥下困難のある方がいらっしゃる場合、本当に求めているのは「介護食」ではなく「誰もが同じテーブルで楽しめる、上質な食の時間」であることが少なくありません。

本記事では個人情報に配慮しながら、開発支援させていただいた高級冷凍カップスイーツの商品開発プロジェクトを事例として紹介します。実際のやり取りも匿名化の上で差し込みつつ、どのようにプロジェクトを進めていったのか、その思考プロセスを共有いたします。

食品メーカー・コンサルティングファーム・介護事業をされていて、類似の商品開発やブランディングに取り組まれている方のご参考になれば幸いです。

「介護食」という枠を超えたい想い

△依頼者さんにも参加してもらわないと商品化は失敗する
相談主は、ご家族に嚥下困難者を抱えていて、日々の食事で「同じ食卓で、同じものを食べて、同じように美味しいと感じる時間」が欲しいという経験から、一つの商品アイデアを育ててこられました。

「介護食」ではなく、あくまで「高級スイーツ」として成立していて、病院・施設への見舞い品、在宅介護の「ご褒美スイーツ」、高級老人ホームのデザート、百貨店ギフトとしても成立するもの…

ただ、この商品コンセプトを形にするにあたり、当初は「何を優先し、何を妥協するか」の軸が定まっていない状態でした。嚥下性・高級感・冷凍適性・コスト——これらはすべて、少なからずトレードオフの関係にあります。すべてを同時に満たそうとすれば、開発は必ずどこかで行き詰まります。

全部を盛り込もうとしても行き詰るのは目に見えているんですね。それは、こじらせ婚活女子が、お相手の男性に理想を求め過ぎる状態に似ています。

商品化率UPは、入念なヒアリングで決まる

最初の仕様ヒアリングで、①【言語化】を固めます。商品開発をお受けする際、当方がまず大切にしているのは「言葉にして並べ議論し、一緒に仕様を固める」ことです。商品開発は「こそだて」を同じ。丸投げでは上手くいきません。まず言葉のニュアンスを一つずつ検証していきます。「絹」「雲」「泡」「淡雪」——どの言葉が最もしっくり来るかは、実際に並べて見比べて、選び取る。

【当方】
良いですね!ありがとうございます(^^)そうしましたら、優先順位の高い項目から並べてみて下さい
1位〜6位までのイメージです

これに対して、クライアントさまからは以下のような順位付けが返ってきました(具体的な数値は伏せて表現しております)。

【クライアント様】
・口に入れた瞬間に自然に崩れ、滑らかに消えていく食感(噛まずに食べられるレベルを目指したい)
・各層が分離せず、解凍後に一体感のある口溶けになること
・喉への通りやすさ(嚥下性)にも配慮した設計
・層構造(見た目に高級感がでるならマストではないです)
・量産時の食材原価、1個あたり◯◯円台
・温度帯による食感変化(半解凍〜完全解凍)
です。

このランキングは、開発方針を決める上で決定的な情報になります。読み解くと「噛まずに食べられるレベルの口溶け」と「層の一体感」「嚥下性」が上位3項目に集中しており、「層構造(見た目)」は必須ではないことが明示されています。
ここから読み取れる判断軸は明確です。

見た目よりも、口に入れてからの体験を優先する
層が見えることは手段であって目的ではない
コストは重要だが、最上位ではない

この優先順位が言語化されただけで、素材選定・製法・パッケージ設計のすべての意思決定が、ブレずに進められるようになります。「迷ったら上位3項目を優先する」というシンプルなルールが、開発現場では何よりも強力です。

商品を「作り込む」とは?

次に②【デザイン化】そして③【テーマ曲化】です。

言葉をイラストデザインに変換し、眺めるのですが、その段階でチーム内の相違を排除します。イラストの段階でイメージがズレていたら、そのまま開発を進めても仕上がりの段階でズレが露呈するだけです。

では「デザイン化」「テーマ曲化」の実例を見てみましょう。

◆ありがとうございます!イメージそんな感じです♪
添付写真のような容器で、蓋までに空間がある設計にしたいです。食べやすいかなと
バニラミルク味
内容量 ◯◯ミリ
容器 ◯◯〜◯◯ミリ
今後のラインナップを考えて、
ジュレ
ムース
スポンジ
3層が良いかなという感じです

このように、容器・内容量・層構成という物理的な仕様が、最初のやり取りの時点ではっきりと言語化されていること、は絶対条件です。

ちなみにカップの内容物から「カップのフチ、蓋までの空間を創造する」という設計発想も重要です。スプーンを差し込む角度・深さに余裕があるほど、身体的負担が軽くなったり、ご家族が介助する際の動作もしやすくなるなど、詳細なシーンを想定するのです。

何1つとっても、意味がある。なぜその大きさなのか?形なのか?色なのか?全てに理由がある状態まで作り込む。見た目の美しさと機能性が、デザイン選択のなかに織り込まれているのです。

「試作を無駄にしない」プロセス設計

商品開発の現場でよく起きるのが「試作して、食べてみて、『なんか違ったね』で終わる」というパターン。これは、開発者側にもクライアント側にも、時間的にも経済的にも大きな損失になります。

当方でプロジェクトの序盤にお伝えするのは、こうしたメッセージです。

【当方】
試作して「なんか違ったねー」で終わりです(笑)
大切な、お金と時間を有効に使おう、というのが当方のモットーです

半分冗談のような言い方ですが、これは本気で考えている理念です。試作に入る前に「何を目指すのか」「何が成功か」を言語化して合意形成しておかなければ、試作は高価なギャンブルになってしまいます。

試作代行は、原材料費・設備稼働費・専門パティシエのレシピ構築費などが重なり、一度の試作でも決して安くありません。だからこそ試作に入る前のヒアリング、仕様書・優先順位表・コンセプトシートにこそ、時間をかけるべきなのです。

商品のイメージソング(共有素材)を制作する

商品開発の初期段階で、この種の優先順位ワークを行わないまま進んでしまうと、関係者それぞれが頭のなかで勝手に優先順位をつけて議論することになり、ケンカのような進め方になっていきます。本来はチームのはずなのに、なぜか対立するような関係になってしまうのです。

また、当方で特徴的なのが開発スイーツをイメージできるような「テーマ曲」を作ることです。チーム全員の世界観をすり合わせる——ブランドミュージックの制作が試作の前に行われています。

生成AIの音楽ツールを用いて、今回がピアノ主体の楽曲を試作し、クライアントさまにお送りしたところ、このようなフィードバックをもらいます。

【クライアント様】
きれいな曲で素敵ですね!
上品で、温かく優しい感じがします。
もう少しテンポを落として、静けさを強めたいです。
ゆっくり広がって、自然に消えていく感覚に寄せたいです。消え方の美しさを重視するような感じです。
くちどけカップスイーツのイメージは白で上品、フレーバーもそんな感じです。
ただ、先ほど送ったジュレ、ムース、とろけるスポンジ3層とカップで開発は可能でしょうか?

この「消え方の美しさを重視する」というひと言は、プロジェクト全体のトーンを象徴する重要なキーワードになります。スイーツを「食べる」という行為のなかに、「立ち上がり」「広がり」「消え方」という時間的な弧を描くことを捉えています。

試作前のすり合わせ・三種の神器

最終的にブランドコピーとして採用したのは「淡雪のように、ふっと溶ける。」という表現です。「消え方の美しさ」を重要視しています。

なお、同じメッセージの後半で「3層とカップで開発は可能か?」という現実的な確認が添えられている点も、先に優先順を決めたことにより、何番目に優先すべきなのか?を議論しやすくなります。

開発アプローチ:言葉・ビジュアル・音の3つで組み立てる

お困りごとから生まれた発想

嚥下配慮食品の販促物では、「嚥下調整食コード◯対応」「介護食」といった用語が、商品説明の中心に据えられることが一般的です。機能を正確に伝えるうえでは有効ですが、召し上がる本人の心情を考えたとき、これらの言葉はときに重く響きます。

「介護食を食べさせられている」と感じれば、どれほど美味しくても、食の時間は豊かにはなりません。とくに高齢の方は、「周りに手間をかけている」という感覚自体を避けたいと思う場合も多く、医療・介護の文脈を前面に出されることそのものが、プライドに関わる問題となり得ます。

今回のプロジェクトでは、パンフレット・商品説明・パッケージ文言のすべてにおいて、医療・介護の語彙を最小化する方針を徹底し「嚥下調整食コード◯対応」は「淡雪のように、ふっと溶ける」「どなたにも、おいしく召し上がれます」へ言い換えしています。

キャッチコピーは「どなたも、同じテーブルで、同じ喜びを」。商品の機能ではなく、商品を囲む時間と関係性を描くことを意識しています。

実際の製品イメージ・イラスト画像

ビジュアルの設計:透き通るような雰囲気で高級感を語る
商品パンフレットのデザイン方針としては、「高級・上品・ホテルのデザート風」を基調に、自然光のやわらかいテイストを採用しました。将来展開予定のフレーバー(白桃・梨・白ぶどう)をイラストで並べて見せることで、商品構成を視覚的に伝えています。

白を基調としたパステルカラーは「介護食らしさ」を消し、「百貨店の上階で売られているギフト」をイメージできるようにしました。ここまで詰めておくからこそ試作完成品が「思ってたのと全然違った…」という相違を極限まで減らすことができるのです。

技術の設計:物性と冷凍挙動の基礎
商品の物理的な設計においては、以下のような技術的課題を一つずつ整理していきました。

食すシーンを限界まで絞り込むこと

凝固剤の選定:急速冷凍耐性と、解凍時の安定化
口腔内崩壊速度と温度帯による食感変化:半解凍から完全解凍まで、どの帯でも美味しい設計

プロジェクトで重要なのが「特定の誰かのために設計された商品ほど、結果として多くの人に届く」ということ。嚥下配慮のある方のために設計された口溶けは、そうでない方にとっても極上の軽やかさとして体験されます。「同じテーブルで、同じものを食べたい」という切実な願いから生まれた商品は、贈答シーンにおける「相手を気遣う気持ち」とも重なります。

よく「ターゲットを絞れ」とよく言われますが、ターゲットを狭く定義すると、届く範囲が狭くなることは、必ずしも同じではありません。ある一人の切実さを起点に設計された商品は、同じ構造の切実さを抱えた別の誰かにも届きます。

嚥下配慮スイーツの開発・まとめ

商品開発では「感覚で美味しい」ものを作ろうとしがちですが、それでは意見が分かれて決して上手くいきません。美味しさを作ることと、美味しさを届けることは全く別の技術です。開発を始める前から届けることまで想像できないといけない。

嚥下配慮を必要とする方は、日本国内だけでも数百万人規模で存在すると言われています。しかも時代と共に確実に増えます。

類似のテーマ——嚥下配慮食品、ユニバーサルフード、介護×ギフト、冷凍スイーツ、高齢者向け商品開発——に取り組む皆さまにとって本記事が何らかのヒントになれば幸いです。

〇〇はどうしよう等と「悩む時間」を費やしても「行動」が、どんどん遅れてしまいます。それより必要な行動に絞って戦略通りに効率良く動く方が確実に結果が出ます。

うーん、これを聞くべきか…?迷った時点でLINEから、お気軽にご相談下さい(月江直通で自動情報配信ではございません)


◆月江 瑞穂(つきえ みずほ)と申します
パティシエを続ける方を応援しています。3年続ける人が、わずか1%しかいない菓子業界に(こそだてしながら)25年超えで在籍している珍獣です

つきえ経歴(←タップしてご覧下さい)スイーツ技術コンサルタント

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